所得税

所得税(しょとくぜい)とは、担税力の源泉を、所得、消費及び資産と区分した場合に、個人の所得に対して課される税金のこと。

分類

所得税は広義の所得税と狭義の所得税に分類できる。

  • 広義には、狭義の所得税のほか、国税(中央税)における法人の各事業年度の所得に対して課せられる法人税や地方税における住民税、事業税などもこれに含まれる。
  • 狭義は、1月1日から12月31日までの1年間に生じた個人の所得に課税される税金(国税)の事を指す。この税金に係る実体法として、日本では所得税法(昭和40年3月31日法律第33号)がある。
  • ここでは、主に上記2.の狭義の所得税について記述する。

    所得概念論

    所得概念論とは所得とは何かという議論である。所得税導入以来、様々な展開を見せてきた。

    所得税の課税対象となる所得のとらえかたには次に掲げる通りいくつかの考え方がある。今日では、次の3つのうち、包括的所得概念が有力であるが、一方で、ヨーロッパ諸国では制限的所得概念の考え方も根強く、たとえば、ドイツやフランスでは株式譲渡益が非課税とされる。また、北欧諸国では、主に包括的所得概念の非効率性に着目して、投資所得と勤労所得とを区分して前者には比例税率課税を行い、後者には累進税率を適用する二元的所得税が採用されている。

    制限的所得概念

    課税所得は、反復継続する活動から得られるものに限定し、偶発的・一時的なものは課税しないとする考え方。いわゆる取得型所得概念の一つ。

    産業革命以降、資本の自立的運動(資本の循環)の結果として賃金・利潤・利子・配当・地代など、継続的・反復的利益が生み出されるようになっていった。それらは確実・安定的な税源であり、把握も容易だったため所得税の成立を促した。このような背景を元に、利益を生み出す源泉に着目して反復継続する活動から得られるもののみを所得とする学説(所得源泉説)が生まれる。この所得源泉説は国民所得論を基礎理論として19世紀から20世紀初頭のドイツ(ドイツ帝国)を中心に唱えられた。

    制限的所得概念を前提とした所得税には、所得を源泉によって分類し各所得ごとに異なった税率・税額を課税する分類所得税(イギリスなど)と所得の源泉別に純所得を算出しそれらを合算して課税する一種の総合的所得税(プロイセンやそれを参考にした戦前の日本など)がある。

    消費型所得概念

    課税所得は、所得の内、消費により効用の得られた部分とする考え方。所得は人の一定期間の消費の総額によって測定される。貯蓄を所得から除外する一方、借入金による消費も所得に含まれる。ジョン・スチュアート・ミルやアーヴィング・フィッシャーの理論によるもので、フィッシャー、カルドアにより提唱され今でも経済学者の間には根強い支持があるなど、理論的には一定の有用性が認められている

    消費型所得税概念を採用する所得税(消費型・支出型所得税、支出税)はインドやセイロン(現スリランカ)で短期間実施されたこともあるが定着しなかった。貯蓄除外に起因する不公平、消費の把握・貴族判定の困難性、一般常識からの乖離などが原因である。

    ただし、支出税は内容的には一般消費税に類似するため、一般所得税としての付加価値税によって代替されているとも見ることができる。

    包括的所得概念

    ドイツの財政学者シャンツ(Georg von Schanz)が唱えた純資産増価説にはじまり、アメリカのヘイグ(Robert M. Haig)とサイモンズ(Herry C. Simons)によって発展した概念。シャンツ=ヘイグ=サイモンズ概念、ヘイグとサイモンズの頭文字をとってH-S概念ともいわれる。課担税力を増加させる経済的な利得はすべて純資産の増加であり、所得であるとする考え方で、「所得=蓄積+消費」という定式であらわされる。いわゆる取得型所得概念の一つである。一時的・偶発的な利得も所得となり、相続も所得としてみなす(相続税参照)。

    包括的所得概念は公平負担の要請(担税力に応じた負担の原則)に適合し、20世紀の福祉国家に適した所得概念であったため、広い支持を集めることとなった。包括的所得概念を採用する総合累進所得税は全所得を1つの累進税率表で適応し課税することが可能になり、国家財政調達機能・再分配機能や景気調整機能・資源再配分機能を高めることができる。

    他方、問題点もあり、本来であれば、未実現の利得や帰属所得も課税の対象とされるべきであるが、捕捉ないし評価が困難であり、課税の対象とならない場合が多く、たとえば未実現の利得の一つであるキャピタル・ゲインは、実現されなければ課税されない。また1970年代の経済停滞期のアメリカにおいて、包括的所得税の概念は、理論的には明快だが、現実の課税把握においては、概念の曖昧さを払拭できず、課税当局が所得の把握が困難であり、限界があるとして批判された。例えば、地下経済における所得などに対する把握は困難を極め、アメリカ社会において所得課税の不公平感が広がった。1980年代以降は、税率を一律にし、また税務上の手続きを簡素化かつ明瞭にするものとしてフラット・タックスという税案に関する議論が高まった。

    メリットとデメリット

    メリット

  • 申告することによって税金への関心を高め、ひいては政治への関心を高める。
  • 累進課税を導入した場合、富裕層から多額の税を徴収することができ、所得の再配分がおこなわれる。
  • 累進課税を導入しても高所得者の労働供給が抑制されないことが実証により示されている(高い所得税を課された場合に労働供給をしなくなりやすいのはむしろ低所得者である)。
  • デメリット

  • 累進課税を導入した場合、制度や税金の計算が複雑である。
  • 累進課税を導入した場合、中高所得層の勤労意欲をそぐ。自由主義者とされるフリードリヒ・ハイエク、ミルトン・フリードマンは、所得は貢献度に応じて支払われるべきものであり 累進課税等による所得再分配政策は認めない。しかし、その一方では貧困問題を放置するべきではないという姿勢を一貫してしめしている。
  • 節税・脱税が行われやすい。働き方によって所得の捕捉率が異なる問題(クロヨン)があり、必ずしも公平・平等ではない。
  • 所得税が実際に勤労意欲にどのような影響を与えているかは不明であるという指摘がある。
  • 所得税の歴史

    ここでは所得税の歴史について記述する。

    世界の所得税

  • 1799年 – イギリスで、ナポレオン戦争の戦費調達のため所得に対し10%の比例税率。以後廃止導入を繰り返し、1842年に定着。
  • 1840年 – スイス導入
  • 1851年 – プロイセン(ドイツ)導入。ドイツ帝国成立後の1891年に大幅な改正が行われて現代の世界の所得税のモデルとなった。
  • 1861年 – アメリカ導入 南北戦争の戦費調達、憲法違反とされ翌年に廃止(第一次世界大戦時に本格導入)
  • 1864年 – イタリア導入
  • 日本

    当初の所得税は、年間所得が300円以上の者に対して課税した。しかし、個人課税ではなく、世帯合算課税で、戸主が納税義務者とされた。プロイセンの制度を参考として、所得の多寡を5段階に区分し、最低1%(所得300円以上)から最高3%(3万円以上)の低い税率の累進課税方式を採用していた。年間300円以上所得のある世帯の家長である戸主に限って課税の対象としたため、所得税を納税することがいわばステータスシンボルとなり、「富裕税」、あるいは「名誉税」との別名で呼ばれていたという説もある。なお、大部分の一般国民は所得税の課税対象外で、新税の対象とされたのは当時の全戸数(戸主の総数)の1.5%にあたる12万人が対象となり、納税額も国税収入のうちの0.8%程度であった。

    この新税導入の動機としては、清に対抗して海軍の増強・整備が急がれたこと、地租や酒造税などにかたよった租税負担のあり方が自由民権運動によって反政府側から批判されたこと、大日本帝国憲法によって設置が予定されていた帝国議会の衆議院に納税額による制限選挙が導入されたために大規模土地所有者(地租の納税義務者)以外の資本家に対しても選挙権を保障して政治参加を認めるための環境整備のためなどが挙げられている。3年後の1890年(明治23年)に行われた日本最初の国政選挙である第1回衆議院議員総選挙においては満25歳以上の男性で直接国税15円以上を納めている者に選挙権が付与された。

    所得を3種類に区分し、第1種を法人所得、第2種を公社債利子所得、第3種を300円以上の個人所得とした。

    法人税法の制定によって従来の第1種が所得税から分離されて法人税となった。また、分類所得税と総合所得税の2本立てとなり、前者において所得種類別に異なった税率を適用するとともに勤労所得への源泉徴収制度が導入され、後者において所得合計が5,000円以上の者に10-65%の高度の累進課税をかけた。

    申告納税の導入によって所得税の一本化(総合所得合算申告納税制度)が図られる。また、その後の改正で最高税率が75%とされていたが、インフレ利得者等へ重課するためとして85%にあげられた。

    1949年(昭和24年)のシャウプ勧告は、このように高い所得税率は勤労意欲にマイナスがある等の理由で、所得税の最高税率を下げ、それを補うための補完税として富裕税を導入することを勧告した。この結果、1950年(昭和25年)の改正で所得税の最高税率が55%に抑えられ、同時に累進税率で富裕税が導入された。しかし、富裕税は日本に定着せず、3年後の1953年(昭和28年)に廃止されることとなり、代わりに所得税の最高税率が65%に戻された。

    日本の所得税

    日本の所得税は、課税標準として総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の3つを設けている。これは、総合所得税課税を基本としながら、退職所得及び山林所得については分離所得税課税を実現するものである。

    所得税の納税義務者

  • 個人
  • 居住者
  • 非永住者
  • 非居住者
  • 法人
  • 内国法人
  • 外国法人
  • 人格の無い社団
  • 所得

    以下にあげる10種類の所得について、それぞれの計算方法が定められている。従って、その計算方法の結果が、所得税額となる。 以下、所得税法を「法」と表記する。

  • 利子所得(法23条)
  • 配当所得(法24条)
  • 不動産所得(法26条)
  • 事業所得(法27条)
  • 給与所得(法28条)
  • 退職所得(法30条)
  • 山林所得(法32条)
  • 譲渡所得(法33条)
  • 一時所得(法34条)
  • 雑所得(法35条)
  • これらの内、利子所得、配当所得および不動産所得は資産性所得であり、給与所得、退職所得は勤労性所得である。事業所得および山林所得は、資産性所得と勤労性所得が結合したものといわれる。資産性所得と勤労性所得は、ともに恒常性所得に該当する。さらに、譲渡所得および一時所得は、臨時所得に該当する。そして雑所得は、これら9種類の所得のいずれにも該当しない所得をいう。

  • 所得税法によるもの
  • 当座預金の利子
  • 恩給
  • 生活用動産(高額品を除く)
  • 文化功労者年金・学術奨励金・ノーベル賞の賞金(ノーベル経済学賞は課税予定とされているが、日本人の受賞実績はない。 )
  • 給付奨学金
  • 保険金・損害賠償金
  • 公職選挙法の適用を受けた選挙費用
  • 租税特別措置法によるもの
  • 勤労者財産形成住宅貯蓄契約・勤労者財産形成年金貯蓄契約の利子、収益の分配金
  • 納税準備預金の利子
  • 国、地方公共団体に対する、譲渡所得
  • オリンピックのメダリストが日本オリンピック委員会から受け取る報奨金
  • その他の法律によるもの
  • 遺族年金
  • 健康保険、国民健康保険、共済組合等の保険給付
  • 生活保護の支給金、児童手当
  • 当籤金付証票(宝くじ)やスポーツ振興くじ(サッカーくじ)の当選金品
  • 計算式

    所得税を求める計算は、次の通りである。

    (納税者の1年間に得た総合課税分の所得) - (所得控除額) = 課税所得金額

    課税所得金額) × 所得税の税率 - (税額控除額)=納付所得税額

    控除と税率

    所得税の控除は、次の態様に分けられる。

  • 引くことができるものによる分類
  • 所得控除(米: Deductions): 所得金額から引くことができるもの
  • 税額控除(米: Tax Credits): 課税所得金額に税率を掛けて算出した税額から、一定の金額を差し引くことができるもの
  • 性質による分類
  • 人的控除: 人的要因(配偶者、扶養など)により差し引くことができるもの
  • 物的控除: 人的控除以外のもの
  • 控除の種類を、主に所得控除と税額控除に分類した(便宜上住民税について併記した)。

  • 所得控除
  • 雑損控除
  • 医療費控除
  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済等掛金控除
  • 生命保険料控除
  • 地震保険料控除
  • 寄附金控除(所得税のみ)
  • 障害者控除
  • 寡婦控除・寡夫控除
  • 勤労学生控除
  • 配偶者控除・配偶者特別控除
  • 扶養控除
  • 基礎控除
  • 税額控除
  • No.1200 税額控除
  • 配当控除
  • 住宅借入金等特別控除
  • No.1222 耐震改修工事をした場合(住宅耐震改修特別控除)(所得税のみ)
  • 政党等寄附金等特別控除
  • 外国税額控除
  • 調整控除(住民税のみ)
  • その他の控除
  • No.2072 青色申告特別控除
  • No.3302 マイホームの3,000万円特別控除
  • 純損失の繰越控除、雑損失の繰越控除
  • 例えば「課税される所得金額」が700万円の場合には、求める税額は次のようになる。

     700万円(総所得)×0.23(税率) – 63万6,000円(速算控除額)=97万4,000円(所得税)

    税率の推移

    最高税率の変遷は、以下のとおりである。

  • 1974年(昭和49年)   75.0%
  • 1984年(昭和59年)   70.0%
  • 1987年(昭和62年)   60.0%
  • 1989年(平成元年)   50.0%
  • 1999年(平成11年)   37.0%
  • 2007年(平成19年)   40.0% (課税標準1,800万円以上)
  • 2015年(平成27年)   45.0% (平成25年度の法改正によるもの)
  • 財務省によると、2007年(平成19年)現在の申告者の実際の所得税負担率は、所得が1~2億円の納税者(26.5%)がピークになっている。それ以上の高額納税者は逆に下がり、所得100億円以上では14.2%となっている。

    これは、山林所得、土地建物等の譲渡による譲渡所得、株式等の譲渡所得等は、他の所得と分離して納税する分離課税が選択できるためである。分離課税は通常の納税(総合課税)に比べ税率が低い物が多く、また高額所得者は、分離課税が適用できる所得の割合が高いことが多い。その結果、高額所得者の実質税負担率は低くなるのである。

    たとえば株式等の譲渡所得は、金融機関などを通した上場株式は2011年(平成23年)分までは7%(他に住民税3%)、2012年(平成24年)分以降は15%(住民税5%)。それ以外は2011年分までは20%(所得税6%)、以降は上場株式と同等の税率が設定されている。上場株式の場合、2011年(平成23年)分までは所得が195万円を超え 330万円以下の納税者に適用される税率10%より低くなっている。

    税収の推移

    所得税は、大きな増減を繰り返しながらも上限が減少傾向にある。

    ※ 参照元:https://ja.wikipedia.org